プロダクト改善に役立つコホート分析の種類:期間コホートとセグメントコホートの使い分け
はじめに:コホート分析の種類を知ることの重要性
プロダクトの成長には、ユーザー行動の継続的な追跡と理解が不可欠です。特に、ユーザーがどのようにプロダクトを利用し始め、時間が経過するにつれて行動がどう変化するのかを把握することは、定着率向上や離脱防止、効果的な施策立案のために欠かせません。コホート分析は、このユーザー行動の時間経過に伴う変化を捉える強力な手法です。
しかし、「コホート分析」と一口に言っても、ユーザーをどのような基準でグループ化(コホート定義)するかによって、分析の目的や得られるインサイトは異なります。主要なコホート分析の種類として、「期間コホート」と「セグメントコホート」があります。
本記事では、プロダクト改善を目指すプロダクトマネージャーの皆様に向けて、期間コホートとセグメントコホートの違い、それぞれの目的、具体的な活用例、そして効果的な使い分けについて解説します。これらの違いを理解することで、皆様の課題に対して、より適切なコホート分析を選択し、深いインサイトを獲得できるようになることを目指します。
コホート分析の基本概念(再確認)
コホート分析とは、特定の期間や特定の属性・行動で共通点を持つユーザーの集団(コホート)を定義し、その集団が時間経過とともにどのように行動を変えていくかを追跡・分析する手法です。これにより、「サービス利用開始1ヶ月後のユーザーはどのくらいの割合で残っているか」「特定機能を一度利用したユーザーは継続利用しやすいか」といった問いにデータで答えることができます。
コホート分析の一般的なアウトプットは、縦軸にコホート、横軸に経過期間をとった表形式(コホートテーブル)で、各セルに特定の指標(例:継続率、平均利用回数)が表示されます。
期間コホート分析とは
定義と目的
期間コホート分析は、ユーザーがプロダクトに対して最初に特定のアクションを起こした期間(例:登録日、初回購入日、初回アクティブ日など)に基づいてユーザーをグループ化する手法です。例えば、「2023年1月に登録したユーザー」「2023年Q4に初回購入したユーザー」といったコホートを定義します。
この分析の主な目的は、異なる獲得時期に流入したユーザー群のその後の行動パターンや継続性を比較することにあります。特定の時期に実施したマーケティングキャンペーンやオンボーディング施策の効果が、その時期に獲得したユーザーのその後の定着率にどう影響したかなどを評価するのに適しています。
具体的な見方・読み取り方
期間コホートテーブルでは、通常、縦軸がコホート(例:登録月)、横軸が経過期間(例:登録からの週数、月数)となります。各セルには、コホート内のユーザーのうち、特定の期間経過後に指定したアクションを行ったユーザーの割合(例:継続率)や、その期間中の平均的な行動指標が表示されます。
例えば、月次の登録コホート分析で継続率を見る場合、「2023年1月登録コホートの1ヶ月後継続率はX%」「2023年2月登録コホートの1ヶ月後継続率はY%」といった数値を比較します。これにより、時期によって継続率に差があるか、そしてその差が特定の施策実施時期と関連しているかなどを分析できます。
活用例
- マーケティング施策の効果測定: 特定のキャンペーン期間中に獲得したユーザーの定着率が、通常期間のユーザーと比較して高いか低いかを確認する。
- オンボーディング施策の効果測定: オンボーディングフローを改善した後に登録したユーザーの初期継続率が向上したかを確認する。
- 季節性や市場トレンドの影響把握: 特定の時期に獲得したユーザーの継続率が他の時期と顕著に異なる場合、その時期特有の要因(例:年末商戦、新生活シーズン)が影響している可能性を探る。
- プロダクトの初期体験改善: プロダクトの初期体験を改善した時期前後のコホートを比較し、改善の効果を評価する。
セグメントコホート分析とは
定義と目的
セグメントコホート分析は、ユーザーがプロダクトに対して最初に特定のアクションを起こした期間に関わらず、特定の属性(例:年齢層、地域、流入チャネル)や、特定の行動(例:特定機能の利用有無、課金経験の有無、特定のコンテンツ閲覧経験)に基づいてユーザーをグループ化する手法です。例えば、「有料プランを契約したことがあるユーザー」「特定のチュートリアルを完了したユーザー」といったコホートを定義します。
この分析の主な目的は、異なるユーザーセグメント間での行動パターンや継続性を比較し、特定の属性や行動がユーザーの定着や離脱にどのように影響しているかを理解することにあります。ロイヤルユーザーやハイポテンシャルユーザーの特性を特定したり、離脱しやすいユーザーセグメントを特定したりするのに適しています。
具体的な見方・読み取り方
セグメントコホート分析では、まず比較したいセグメント(例:「課金ユーザー」「非課金ユーザー」)を定義します。その後、それぞれのセグメント内のユーザーについて、期間コホートと同様に時間経過に伴う行動(例:継続率、利用頻度)を追跡します。アウトプットは、通常、セグメントごとに期間コホートテーブルを作成し、それらを比較する形になります。
例えば、「課金経験のあるユーザーコホート」と「課金経験のないユーザーコホート」の月次継続率を比較することで、課金がユーザーの継続性にどれだけ影響するかを定量的に把握できます。
活用例
- ロイヤルユーザーの特定と理解: 高い継続率を示すユーザーセグメント(例:特定機能を頻繁に使うユーザー)の特性を特定し、その行動を促進する施策を検討する。
- 離脱要因の特定: 低い継続率を示すユーザーセグメント(例:特定の機能を利用しなかったユーザー、特定の流入元からのユーザー)を特定し、そのセグメント向けの対策を検討する。
- 機能利用と定着率の関連性分析: 特定の重要機能を一度でも利用したユーザーとそうでないユーザーで継続率に差があるかを確認し、その機能の重要性を評価する。
- ペルソナに基づいた行動特性分析: 定義したペルソナに該当するユーザーセグメントの行動パターンや継続性を分析し、ペルソナの有効性を検証したり、各ペルソナ向けの施策を検討したりする。
期間コホートとセグメントコホートの使い分け
期間コホートは主にユーザーの「獲得時期」に関連する要因や施策の効果を検証するのに適しています。キャンペーンや特定のプロダクト改善が、導入時期のユーザーにどのように影響を与えたかを知りたい場合に有効です。
一方、セグメントコホートは主にユーザーの「属性」や「特定の行動」に関連する要因が、その後の継続性にどう影響するかを検証するのに適しています。ユーザーの性質や、プロダクト内の特定のインタラクションが、ロイヤリティや離脱傾向とどう結びついているかを知りたい場合に有効です。
多くの場合、これらの分析は単独で行うのではなく、組み合わせて使用することでより深い理解が得られます。例えば、「特定のキャンペーンで獲得したユーザー(期間コホート)」のうち、「特定の機能を利用したユーザー(セグメント)」の継続率を分析するといった応用が可能です。これにより、特定のキャンペーンで獲得したユーザーの中でも、さらにロイヤリティの高いユーザー群の特性を絞り込むことができます。
データ分析ツールやBIツールの中には、これらのコホート分析機能(または、ユーザー属性や行動によるセグメント機能と期間経過追跡機能を組み合わせることで同等の分析を行う機能)が搭載されているものがあります。お手元のツールでどのような分析が可能か確認してみることをお勧めします。
結論:目的に合ったコホート分析を選択する
コホート分析は、ユーザーの長期的な行動を理解するための強力な手段ですが、分析の成否は適切なコホート定義にかかっています。期間コホートは獲得時期によるユーザー行動の比較に、セグメントコホートは特定の属性や行動を持つユーザー群の行動特性の比較にそれぞれ強みがあります。
皆様が現在抱えている課題(例:特定時期に獲得したユーザーの離脱が多い、特定の機能利用者が定着しやすいか知りたいなど)を明確にし、その課題解決に最も適したコホート分析の種類を選択することが、データから有効なインサイトを引き出すための第一歩となります。ぜひ、お手元のデータとツールを使って、これらのコホート分析を実践してみてください。