ユーザーの重要なアクション完了後の継続率を追跡する:行動コホート分析の具体的な活用法
プロダクトマネージャーの皆様にとって、ユーザーがプロダクトを継続して利用しているかどうか、そしてなぜ利用を継続したり、離脱したりするのかを理解することは、プロダクト改善において極めて重要です。特に、新規ユーザーが特定の重要なアクション(例: アカウント登録、チュートリアル完了、初回購入、特定機能の利用開始など)を完了した後の行動パターンは、その後の定着率を大きく左右する可能性があります。
本記事では、このような「重要なアクション」を起点としたコホート分析に焦点を当て、その概念、目的、具体的な分析方法、そしてプロダクト改善への活用について詳しく解説します。
重要なアクション起点コホート分析とは
コホート分析は、特定の共通項を持つユーザーグループ(コホート)を定義し、その後の行動を経時的に追跡する分析手法です。最も一般的なのは「期間コホート」で、特定の期間(例: 2023年1月に登録したユーザー)を起点としてその後の定着率を追跡します。
これに対し、「行動コホート分析」は、ユーザーが特定の行動(アクション)を実行した時点を起点としてコホートを定義し、その後の行動を追跡します。本記事で扱う「重要なアクション起点コホート分析」は、この行動コホート分析の一種であり、プロダクトの利用継続や価値実感に繋がると考えられる、特に重要なアクションを分析の起点とします。
例えば、「チュートリアルを完了したユーザー群」と「チュートリアルを完了しなかったユーザー群」に分け、それぞれのその後の定着率を比較するといった分析がこれにあたります。
なぜ重要なアクション起点コホート分析を行うのか
この分析手法には、プロダクトマネージャーが抱える様々な課題を解決するための価値があります。
- オンボーディングの効果測定: 新規ユーザーがプロダクトの価値を理解し、継続利用に繋がるまでの初期プロセス(オンボーディング)の効果を定量的に評価できます。特定のオンボーディング施策(例: チュートリアル、初期設定サポート)を完了したユーザー群の継続率が高い場合、その施策は効果的であると判断できます。
- 特定機能の貢献度評価: プロダクトの主要な機能や、利用を推奨したい特定機能を利用したユーザー群の継続率を追跡することで、その機能がユーザー定着にどれだけ貢献しているかを測ることができます。
- 離脱リスクの高いユーザー群の特定: 重要なアクションを完了しなかったユーザー群や、特定のアクション完了後に継続率が急激に低下するコホートを特定し、これらのユーザー群に対するリテンション施策の必要性を判断できます。
- 施策の効果測定: 特定のアクション完了を促す施策(例: アクション完了で特典付与)を実施した場合、その施策実施後にアクションを完了したユーザーコホートの継続率が、それ以前のコホートと比較して向上したかを確認できます。
これらの分析を通じて、データに基づいたプロダクト改善の方向性や優先順位を明確にすることができます。
分析のための「重要なアクション」の定義
分析を始める前に、追跡したい「重要なアクション」を明確に定義する必要があります。これはプロダクトの目的やビジネスモデルによって異なりますが、一般的には以下のようなものが考えられます。
- アカウント登録、プロフィール入力の完了
- 最初のコンテンツ投稿、レビュー作成
- 初回購入、有料プランへのアップグレード
- プロダクトのコア機能、キラー機能の利用開始
- 特定の目標達成(例: プロジェクト作成、タスク完了、友達招待)
- 特定のエンゲージメント指標の達成(例: 1週間に3回以上ログイン、特定機能〇回利用)
これらのアクションは、ユーザーがプロダクトの価値を体験したり、プロダクトに深く関与したりする上で節目となる行動であることが多いです。
具体的な分析の手順
重要なアクション起点コホート分析は、以下のステップで進めます。
- 分析対象とする「重要なアクション」を定義する: どのようなアクションを起点とするかを決定します。同時に、そのアクションを完了したことの定義(例: 特定のイベントを発火させた、特定の状態になった)も明確にします。
- コホートを定義し、ユーザーをグルーピングする: 定義した重要なアクションを、特定の期間内(例: 2023年1月1日~1月31日)に初めて完了したユーザー群を1つのコホートとして定義します。これを対象期間ごとに繰り返します(例: 1月コホート、2月コホート、...)。
- コホートごとの継続的な行動を追跡する: 定義した各コホートに属するユーザーが、起点となるアクション完了後、特定の期間(例: 1日後、7日後、30日後)において、どのような行動(例: 再訪しているか、特定の機能を利用しているか、課金しているか)を取っているかを追跡します。ここで追跡する行動も分析目的に合わせて定義します。一般的には「継続率」(再訪しているユーザーの割合)がよく用いられます。
- 継続率などを計算し、可視化する: 各コホートについて、起点からの経過期間ごとの継続率を計算し、コホート表やヒートマップ形式で可視化します。これにより、どのコホートが、アクション完了後どのくらいの期間で継続率がどのように推移しているかを一覧できます。
分析結果の解釈と活用例
分析結果のコホート表からは、様々なインサイトを得ることができます。
- アクション完了による継続率の向上: アクションを完了したコホートが、完了しなかったコホート(比較のために別途分析)や、一般的な期間コホートと比較して、顕著に高い継続率を示している場合、そのアクションがユーザーの定着に大きく貢献していると言えます。さらにこのアクション完了率を高めるための施策に注力すべきです。
- 継続率の低下パターン: アクション完了後、特定の期間(例: 3日後や1週間後)で継続率が急激に落ち込んでいるコホートがある場合、その期間に何かユーザー体験上の問題がある、あるいは次のステップに進むための障壁がある可能性が考えられます。ユーザー行動ログの詳細分析やユーザーインタビューを通じて原因を深掘りし、改善策を検討します。
- コホート間の継続率の比較: 特定の施策実施前後のコホートや、異なる流入経路からアクションを完了したコホート間で継続率を比較することで、施策や流入経路の質を評価できます。
例えば、あるタスク管理プロダクトで「最初のタスクを登録する」ことを重要なアクションと定義したとします。このアクションを完了したユーザーコホートの継続率が、完了しなかったコホートと比較して圧倒的に高い場合、このアクション完了がユーザーの価値実感に繋がっていると推測できます。さらに分析を進めると、「最初のタスクを登録後、プロジェクトにメンバーを招待したユーザー」はさらに継続率が高いことが分かったとします。このインサイトから、「新規登録ユーザーに対して、最初のタスク登録とメンバー招待を促すオンボーディングフローを強化する」という具体的な施策を立案できます。施策実施後、新たに「最初のタスクを登録し、メンバーを招待した」コホートを作成し、その後の継続率を追跡することで、施策の効果測定を行います。
分析ツールの活用について
多くのBIツールやデータ分析ツール(例: Google Analytics 4, Firebase, Amplitude, Mixpanelなど)には、行動コホート分析を行うための機能が備わっています。これらのツールでは、分析の起点となるイベント(アクション)を選択し、追跡したい期間や継続の定義(例: ログイン、特定のイベント発火)を設定することで、簡単にコホート表やグラフを生成することができます。ツールの操作方法はそれぞれ異なりますが、基本的な考え方は本記事で解説した内容と同様です。ご自身の利用可能なツールで、どのような設定項目があるか確認してみてください。
まとめ
ユーザーの重要なアクション完了を起点としたコホート分析は、ユーザーがプロダクトの価値をどのように体験し、継続利用に至るかを深く理解するための強力な手法です。この分析を通じて、オンボーディングプロセスの課題特定、特定機能の評価、離脱の兆候の早期発見など、プロダクト改善に直結する実践的なインサイトを得ることができます。
コホート分析は、単に数字を追うだけでなく、その背景にあるユーザー心理や行動パターンを読み解くことが重要です。ぜひ本記事を参考に、プロダクトにおける「重要なアクション」を定義し、ユーザー行動の継続的な追跡を始めてみてください。これにより、データに基づいた、より効果的なプロダクト改善を実現できるでしょう。