コホート分析で特定の機能利用を追跡:プロダクト機能改善への示唆を得る方法
プロダクトマネージャーの皆様は、日々多くの機能改善や新機能開発に取り組まれていることと存じます。機能がリリースされた後、実際にユーザーにどのように利用されているのか、その利用が継続的な行動に繋がっているのかを把握することは、次の改善施策を検討する上で非常に重要です。しかし、単発の利用率だけを見ていると、長期的な定着状況や、時間が経過した後のユーザーの行動変化を見逃してしまうことがあります。
このような課題に対し、コホート分析は強力な手法となります。特に、特定の機能を利用したユーザーをコホートとして定義し、その後の行動を追跡することで、機能の効果や課題を深く理解するための示唆を得ることができます。
本記事では、コホート分析を用いて特定の機能利用者を追跡する方法と、その結果からプロダクト機能改善に繋がる示唆を得るためのポイントについて解説します。
特定の機能利用をコホート分析するとは
通常のコホート分析では、ユーザーがサービスに登録したり、初めて購入したりした「期間」を基準にコホート(ユーザーグループ)を作成することが多いです。例えば、「2023年10月に新規登録したユーザー群」といった形です。これは「期間コホート」と呼ばれます。
これに対し、特定の機能利用を起点とするコホート分析は、ユーザーが特定の機能を利用したという「イベント」をコホートの定義とします。例えば、「初めてA機能を完了したユーザー群」や「B機能を使い始めたユーザー群」などがこれにあたります。これは広義の「行動コホート」や「イベントコホート」と呼ばれるアプローチです。
特定の機能利用を起点とすることで、その機能を利用したユーザーが、その後の期間でどのようにサービスを利用し続けているのか、あるいは離脱してしまったのかを追跡できます。
なぜ特定の機能利用を追跡するのか?
特定の機能利用者をコホート分析することには、以下のようなメリットがあります。
- 機能の初期定着率の把握: 新機能がリリースされた後、その機能を利用したユーザーがどれだけ継続的にサービスを利用しているかを確認できます。これは、機能がユーザーにとって価値を提供できているかの一つの指標となります。
- 機能利用と継続利用の関連性の分析: 特定の機能を利用したユーザーは、利用していないユーザーと比較して継続率が高いか、あるいは特定の重要なアクション(購入、有料登録など)を実行しやすいかを分析できます。これにより、その機能がサービスのキーバリューに貢献しているかを評価できます。
- 機能改善施策の効果測定: 特定の機能に対して改善を加えた際、改善後の期間にその機能を利用したユーザーのコホートを作成し、改善前の期間に利用したユーザーのコホートと比較することで、施策の効果を定量的に測定できます。
- 機能利用における課題の発見: 機能を利用したにも関わらず早期に離脱してしまうコホートが見られる場合、機能のオンボーディングに問題がある、あるいは利用体験がスムーズでないといった課題の示唆を得られます。
分析の準備:どのようなデータが必要か?
特定の機能利用をコホート分析するためには、以下のデータが最低限必要になります。
- ユーザーを一意に識別できるID: 匿名IDでも構いませんが、継続的な行動を追跡できるIDが必要です。
- 追跡したい機能利用イベントのログ: どの機能が、いつ(タイムスタンプ)、どのユーザーによって利用されたか、という情報を含むイベントデータが必要です。
多くのBIツールやプロダクト分析ツールでは、これらのイベントデータを収集し、コホート分析機能を活用できます。データ収集設計の段階で、追跡したい機能の利用完了や開始といったイベントを適切に定義し、正確なタイムスタンプと共に記録することが重要です。
具体的な分析手順:ステップバイステップ
特定の機能利用を起点としたコホート分析の一般的な手順は以下の通りです。
-
コホートの定義(イベントの選択):
- 分析したい「特定の機能を利用した」というイベントを選択します。例:「初めてファイルをアップロード完了した」「チャットメッセージを初めて送信した」など。
- このイベントの発生が、ユーザーがコホートに属する条件となります。
-
コホート期間の設定:
- 上記で定義したイベントが発生した期間でユーザーをグループ化します。例:「2023年11月1日~11月7日の間に初めてファイルをアップロード完了したユーザー」「2023年第4週に初めてチャットメッセージを送信したユーザー」など。週単位や月単位で区切ることが多いですが、機能の性質に応じて日単位なども検討します。
-
追跡する指標の定義:
- コホート作成後、そのユーザー群の行動を追跡する指標を定義します。最も一般的なのは「継続利用率」ですが、「特定の二次行動(例:購入、別の重要機能の利用など)の実行率」なども設定できます。
- 例:「ファイルをアップロード完了したユーザーが、その後も週に1回以上サービスを利用している割合」「チャットメッセージを送信したユーザーが、30日以内に有料プランに登録した割合」など。
-
期間の定義:
- コホート作成後のどの時点までの行動を追跡するかを定義します。例:「イベント発生から1週間後」「イベント発生週の翌週」「イベント発生から30日後」など。
- 分析ツールでは、「週0」「週1」「週2」といった形で、コホート起点からの経過期間を列として表示することが多いです。
-
コホートテーブルの作成と解釈:
- 設定した定義に基づき、分析ツールでコホートテーブルを作成します。
- テーブルは通常、行にコホート(起点イベントの発生期間)、列に経過期間を取り、セルに定義した指標(継続率など)の値を表示します。
- このテーブルを読み解き、特定の機能を利用したユーザーの継続率や行動変化のパターンを把握します。例えば、特定のコホートで早期に継続率が大きく低下していないか、時間が経過しても安定して利用を続けているかなどを確認します。
分析結果から機能改善の示唆を得る
コホートテーブルから得られる示唆は多岐にわたります。
- 継続率が低いコホートの特定: 特定の期間に機能を利用したユーザーの継続率が他のコホートと比較して顕著に低い場合、その期間に何か問題があったか、あるいはその期間に流入したユーザー群に特有の性質がある可能性が考えられます。原因をさらに深掘り調査する手がかりとなります。
- 特定の経過期間での継続率低下: 機能利用直後の継続率は高いが、数週間後や数ヶ月後に急激に低下する場合、機能の利用方法を忘れてしまう、次のステップが unclear、あるいは代替手段に流れてしまうといった問題が考えられます。リテンション施策や再エンゲージメント施策を検討する示唆になります。
- 機能利用とビジネス指標の関連性: 特定の機能を利用したコホートが、利用していないコホートと比較して購入率やLTV(顧客生涯価値)が高い傾向にある場合、その機能がビジネス的な価値に貢献していることを示唆します。その機能の利用を促進するための施策に注力する根拠となります。
実際の活用例(簡単なケーススタディ)
あるSaaSプロダクトで、新機能「レポート自動生成機能」をリリースしたとします。リリース後、「初めてレポート自動生成機能を実行したユーザー」をコホートとして追跡しました。
分析の結果、機能利用直後の数週間は継続率が高いものの、1ヶ月経過すると継続率が大きく低下することが分かりました。さらに詳しく調査したところ、一度自動生成を設定したものの、設定内容を忘れてしまったり、レポートの活用方法が分からず利用を停止してしまうユーザーが多いことが示唆されました。
この分析結果に基づき、プロダクトチームは以下の改善施策を検討しました。
- 自動生成設定後のフォローアップメール(設定内容のリマインダー、活用事例紹介など)の配信。
- レポート活用方法に関するヘルプコンテンツの強化やチュートリアルの提供。
- 機能インターフェース上で、設定内容の確認や編集を容易にするUI改善。
このように、特定の機能利用をコホート分析することで、機能の「使われ方」の課題を具体的に特定し、次の改善アクションに繋げることができます。
BIツールでの実現イメージ
多くのモダンなBIツールやプロダクト分析ツール(Google Analytics 4, Firebase, Amplitude, Mixpanel, Heapなど)は、イベントを起点としたコホート分析機能を備えています。
ツールによっては、「コホートの定義」として特定のイベントを選択し、そのイベントを発生させたユーザーをコホートとして作成できます。その後、「追跡する行動」として継続利用(特定のイベントの再発生や、任意のイベントの発生)や、別のイベントの実行などを設定することで、本記事で解説したような分析を実行できます。
具体的な操作方法はツールによって異なりますが、まずは利用しているツールのドキュメントを参照するか、コホート分析機能の中で「イベント」を起点にできるオプションを探してみてください。
まとめ
プロダクト機能の健全性を測り、改善の方向性を定める上で、特定の機能利用をコホート分析するアプローチは非常に有効です。機能を利用したユーザー群の継続的な行動を追跡することで、単発の利用率だけでは見えない利用定着の課題や、機能がサービス全体の価値にどう貢献しているかといった重要な示唆を得ることができます。
まずは、貴社プロダクトにとって特に重要度の高い機能や、最近リリースした新機能など、一つ焦点を絞ってこの分析を始めてみてはいかがでしょうか。コホート分析を通じて得られたデータに基づいた知見は、自信を持って機能改善を進めるための強力な根拠となるはずです。