コホート分析の扉

コホート分析の実践:主要な分析ツールでの基本的なアプローチを理解する

Tags: コホート分析, データ分析ツール, BIツール, プロダクトマネージャー, データ活用

コホート分析の実践:主要な分析ツールでの基本的なアプローチを理解する

プロダクトの成長にデータ活用は不可欠であり、特にユーザーの継続的な行動を理解することは重要です。前回の記事ではコホート分析の基本的な考え方や種類について触れましたが、実際に分析を行うには、データ分析ツールの活用が現実的です。

このツールを活用することで、複雑な集計を効率的に行い、視覚的に分かりやすい形で結果を得ることができます。本記事では、コホート分析を主要な分析ツールで実践するための基本的なアプローチと、ツールの活用における考え方について解説します。

なぜツールでの実践が必要なのか

コホート分析は、特定の共通項を持つユーザーグループ(コホート)の行動を経時的に追跡する分析手法です。手動でのデータ集計やスプレッドシートでの管理は、データの量が増えるにつれて非常に非効率になります。また、集計ミスが発生するリスクも高まります。

データ分析ツールやBIツールを利用することで、以下のメリットが得られます。

これらのメリットを享受するためには、利用しているツールでコホート分析がどのように行えるかを理解しておくことが重要です。

コホート分析が可能な主要なツールの種類

コホート分析機能は、様々な種類のデータ分析ツールに搭載されています。代表的なものをいくつかご紹介します。

  1. ウェブ/アプリ分析ツール:

    • Google Analytics (GA4)
    • Firebase Analytics
    • Amplitude
    • Mixpanel
    • Adobe Analytics これらのツールは、ウェブサイトやモバイルアプリにおけるユーザーの行動データを収集・分析することに特化しており、標準機能としてコホート分析レポートを提供している場合が多いです。
  2. BIツール (ビジネスインテリジェンスツール):

    • Tableau
    • Looker (旧 Looker Studio/Google Data Studio を含む)
    • Power BI
    • Domo これらのツールは、様々なデータソース(データベース、データウェアハウス、CSVなど)を接続し、柔軟なレポートやダッシュボードを作成できます。専用のコホート分析機能が搭載されている場合もあれば、テーブル計算や詳細な設定によってコホート分析を構築する場合もあります。
  3. データベース/データウェアハウスとSQL:

    • Redshift
    • BigQuery
    • Snowflake
    • PostgreSQL
    • MySQL データがこれらの場所に蓄積されている場合、SQLクエリを記述することでコホート分析に必要なデータを集計できます。集計したデータをBIツールやスプレッドシートに渡して可視化を行います。最も柔軟な分析が可能ですが、SQLの知識が必要です。

プロダクトマネージャーの皆様は、Google AnalyticsやFirebase、または何らかのBIツールを利用されていることが多いかと思います。これらのツールでの基本的なアプローチを理解することが、実践への第一歩となります。

ツール共通の基本的なコホート分析設定項目

ツールによってインターフェースや専門用語は異なりますが、コホート分析を設定する際に共通して定義する必要がある項目があります。これらを理解しておけば、どのツールを使う場合でも応用が効きます。

  1. コホートの定義(Initial Event / Inclusion Criteria):

    • 何を基準にコホートを分けるかを定義します。「初回訪問」「初回購入」「特定機能の利用開始」といった、ユーザーがプロダクトとの関係を開始したり、特定の重要な行動を起こしたりしたイベントがよく用いられます。
    • 多くのツールでは、この「最初の行動」の発生時期(日、週、月など)でコホートを自動的に作成します。
  2. 期間の単位(Period Unit):

    • コホートの発生時期および追跡する期間の単位を定義します。一般的には「日」「週」「月」が使用されます。
    • ユーザー行動のサイクルやデータの粒度に合わせて選択します。頻繁に利用されるプロダクトであれば「日」や「週」、購入サイクルが長いものであれば「月」が適切かもしれません。
  3. 追跡する行動(Returning Event / Retention Criteria):

    • コホートに属するユーザーが、その後の期間にどのような行動を行ったかを追跡するかを定義します。
    • 最も一般的なのは「再訪問」や「再利用」ですが、「再購入」「特定の機能の再利用」「継続的なログイン」など、プロダクトにおける「継続」や「エンゲージメント」を示す重要なイベントを設定します。定着率だけでなく、特定機能の利用率や購入率など、様々な指標を追跡できます。
  4. 表示する指標(Metric):

    • 追跡期間におけるコホートの行動を、どのような数値で示すかを定義します。「ユーザー数」「定着率(Retention Rate)」「特定のイベント実行率」などが一般的です。
    • 通常、コホートの最初の期間(0週目など)のユーザー数を100%として、その後の期間でどれだけのユーザーが追跡する行動を行ったかの割合(%)や実数で表示します。

これらの項目をツール上で適切に設定することで、コホートごとの行動推移を分析できます。

具体的なツールでのアプローチ例

Google Analytics 4 (GA4) のコホート分析レポート

GA4には標準で「コホート探索」レポート機能があります。

このレポートを開き、上記の項目を設定・変更することで、期間コホートによる定着率を視覚的に把握できます。特に、「いずれかのイベント」を継続の定義とした場合の「ユーザーの定着」は、プロダクト全体のざっくりとした定着状況を把握するのに役立ちます。

BIツールでのコホート分析構築

BIツールでは、データソースから必要なデータを取得し、ツール上でコホートテーブルの形に集計・可視化を行います。専用機能がない場合でも、以下の考え方で構築可能です。

  1. コホート定義データの準備: 各ユーザーの「コホート定義イベント」が発生した日時を特定します。例えば、ユーザーIDごとに初回購入日時を記録したテーブルを作成します。
  2. 追跡行動データの準備: 各ユーザーが「追跡する行動」を行った日時を記録したテーブルを作成します。例えば、ユーザーIDごとにログイン日時や特定機能利用日時を記録します。
  3. 期間オフセットの計算: 各追跡行動について、「コホート定義イベントが発生した日時」からどれだけ時間が経過したか(日数、週数、月数など)を計算します。
  4. 集計: 「コホート定義イベントが発生した時期」(例: 2023年1月第1週に初回購入したユーザー)と「期間オフセット」(例: 初回購入から3週目)でグループ化し、その期間に追跡する行動を行ったユーザー数をカウントします。
  5. 可視化: 集計結果をテーブル形式やヒートマップとして表示します。各コホートの0週目(または0ヶ月目)のユーザー数を基準(100%)として、後続期間のユーザー数を割合で表示すると、定着率のコホートテーブルが完成します。

多くのBIツールでは、これらのステップの一部または全部をGUI上の設定や、テーブル計算機能、あるいはカスタムSQLクエリの記述によって実現できます。例えばLookerでは、LookMLモデリング内でコホート分析のディメンションやメジャーを定義することが可能です。Tableauでは、Table Calculationを使って期間オフセットを計算し、定着率を表示するシートを作成できます。

SQLで直接集計する場合は、ユーザーごとの最初のイベント発生日時と、各イベント発生日時を特定し、日付関数を使って期間差を計算後、グループ化して集計します。

ツールを使った分析の注意点

ツールを使うことで分析は効率化されますが、いくつかの注意点があります。

まとめ

コホート分析は、ユーザーの継続的な行動を理解し、プロダクト改善のヒントを得るための強力な手法です。その実践には、Google AnalyticsやFirebase、BIツールといった分析ツールが不可欠です。

これらのツールを活用する際には、コホートの定義、期間単位、追跡行動、指標といった基本的な設定項目を正確に理解し、目的に合わせて適切に設定することが重要です。ツールは複雑な集計や可視化を効率化してくれますが、最終的なインサイトを得るためには、表示されたデータに対する深い解釈と、プロダクト改善への具体的なアクションへの落とし込みが求められます。

まずは利用可能なツールでコホート分析レポートを探してみる、または簡単なコホート集計を試してみることから始めてみてください。データからユーザーの真の姿を捉え、プロダクトを次のレベルへ導く一歩となるはずです。