コホート分析の扉

コホート分析で解明する新規ユーザーの定着要因:初期行動パターンとその後の継続率

Tags: コホート分析, 新規ユーザー, 定着率, オンボーディング, プロダクト改善

はじめに

プロダクトの成長において、新規ユーザーの獲得は重要ですが、それ以上に獲得したユーザーに継続して利用していただくこと、すなわち定着率の向上は、プロダクトの長期的な成功に不可欠です。特に、ユーザーがプロダクトを使い始めて間もない「初期体験」は、その後の利用継続に大きな影響を与えます。

プロダクトマネージャーとして、新規ユーザーがどのような初期行動を取るユーザー群が定着しやすいのか、逆にどのような行動を取るユーザー群が離脱しやすいのかをデータに基づいて理解することは、オンボーディングプロセスの改善や、ユーザーを定着させるための施策立案において非常に役立ちます。

本記事では、新規ユーザーの初期行動と定着率の関係性を明らかにするために、コホート分析をどのように活用できるのか、その考え方と具体的なアプローチについて解説いたします。

なぜ新規ユーザーの初期行動をコホート分析で追うのか

新規ユーザーは、プロダクトに対してまだ慣れておらず、価値を感じる前に離脱してしまうリスクが高い状態にあります。この初期段階でユーザーがどのようなアクションを取ったか、あるいは取らなかったかは、その後のプロダクトに対する関与度や満足度を示す重要なシグナルとなり得ます。

例えば、あるSNSプロダクトであれば、「初日にプロフィール画像をアップロードしたか」「最初の3日以内に友達申請を5件以上送ったか」といった初期行動が、その後のサービス利用頻度や継続率に影響を与える可能性があります。

これらの初期行動を軸にユーザーをコホート(ユーザー群)に分け、それぞれのコホートの継続率を追跡することで、どの初期行動が定着に寄与する「鍵」となるのかをデータに基づいて特定できます。これにより、「ユーザーに最初期に促すべき行動は何か」「オンボーディングで最も注力すべきステップはどこか」といった問いに対し、データに基づいた根拠を持って答えることが可能になります。

初期行動コホート分析の考え方

一般的な期間コホート分析が「いつ登録したか」を軸にユーザーをグループ化するのに対し、初期行動コホート分析では「いつ登録したか」に加えて「登録後、特定の初期期間内に定義された行動を取ったか否か」をコホート分けの基準とします。

具体的には、以下のような考え方でコホートを定義します。

  1. 対象期間の設定: ユーザーの「初期期間」を定義します。これはプロダクトによって異なりますが、「登録後24時間以内」「最初の3日間」「最初の1週間」などが考えられます。
  2. 「初期行動」の定義: 定着に影響を与えそうだと仮説を立てる、特定のユーザー行動を定義します。これは単一のイベントでも、複数のイベントの組み合わせでも構いません。例としては、
    • 必須プロフィールの入力完了
    • 最初のコンテンツ投稿
    • 特定機能(例: 検索機能、購入機能)の初回利用
    • 有料プランへのトライアル登録
    • 特定のチュートリアル完了 など、プロダクトのコアバリューに繋がる可能性のある行動が対象となります。
  3. コホートの生成: 特定の登録期間(例: 2023年1月登録ユーザー)において、定義した初期期間内に定義した初期行動を実行したユーザー群と、実行しなかったユーザー群に分けます。これが分析の対象となるコホートとなります。

例えば、「2023年1月に登録したユーザー」を母集団とし、その中で「登録後3日以内にプロフィール画像をアップロードしたユーザー」と「登録後3日以内にプロフィール画像をアップロードしなかったユーザー」という2つのコホートを作成します。

分析の具体的なステップ

この初期行動コホート分析を実施するための一般的なステップは以下の通りです。

ステップ1: 分析目的と仮説の明確化

何を知りたいのか、どのような仮説を検証したいのかを具体的に定義します。 例:「プロフィール画像のアップロードは新規ユーザーの定着率を高めるか?」

ステップ2: 分析対象となる「初期行動」と「初期期間」の定義

ステップ1で立てた仮説に基づき、分析する初期行動(例:プロフィール画像アップロード)と、その行動を取ったか否かを判断する期間(例:登録後3日以内)を明確に定義します。

ステップ3: 対象コホートの抽出

特定の期間に登録したユーザー(例:2023年1月)を抽出し、ステップ2で定義した初期行動を取ったユーザー群と、取らなかったユーザー群に分けます。これらのユーザー群が分析対象のコホートとなります。多くのBIツールやデータ分析プラットフォームでは、ユーザーセグメントを条件指定して作成する機能があります。

ステップ4: 各コホートの継続率の計算と比較

抽出した各コホートについて、登録からの経過日数(または経過週、月)ごとの継続率を計算します。例えば、登録1週間後の継続率、1ヶ月後の継続率などを比較します。

この継続率を、登録からの経過時間軸に沿ってコホート別にグラフ化することで、継続率の推移を視覚的に比較できます。

ステップ5: 分析結果の解釈と示唆の抽出

各コホートの継続率の推移を比較し、統計的に有意な差が見られるかを判断します。

分析結果の活用方法

分析によって、定着に繋がりやすい初期行動が特定できた場合、プロダクトのオンボーディングプロセスにおいて、その行動をユーザーに促すための施策を優先的に検討できます。

逆に、仮説として立てた初期行動が定着に影響しないと判明した場合は、その行動をオンボーディングで無理に促す必要はないと判断し、別の行動に焦点を移すことができます。

まとめ

新規ユーザーの定着率向上は、プロダクトの持続的な成長にとって不可欠な課題です。そして、その鍵を握るのがユーザーの「初期体験」です。コホート分析を応用し、特定の初期行動を実行したユーザー群とそうでないユーザー群で継続率を比較することで、どの初期行動が定着に繋がりやすいのかをデータに基づいて明らかにできます。

この分析から得られた知見は、データに基づいたオンボーディングフローの改善や、効果的なリテンション施策の立案に直接的に貢献します。ぜひ、プロダクトにおける重要な初期行動を特定し、コホート分析を通じてユーザーの定着要因を解明してみてください。この分析が、プロダクトの初期体験を最適化し、より多くのユーザーに価値を届け続けるための一歩となることを願っております。