コホート分析の結果からプロダクト改善のヒントを見つける方法:データの解釈と示唆の抽出
コホート分析でデータから次のアクションを見出す重要性
コホート分析は、特定の時点や行動を共有するユーザー群(コホート)のその後の行動を追跡することで、ユーザー定着率や離脱パターンを明らかにする強力な手法です。しかし、分析ツールから出力されたグラフや数値を見るだけでは、具体的なプロダクト改善に繋がるヒントを見つけ出すことは難しい場合があります。
コホート分析の真価は、その結果を深く読み解き、「なぜ」そのような傾向が見られるのかを考察し、プロダクトに対する具体的な示唆や改善策を見出す点にあります。本記事では、コホート分析の結果からどのようにインサイトを抽出し、プロダクト改善に繋げていくかについて解説いたします。
コホート分析表の基本的な読み方
コホート分析の結果は、通常、表形式で表現されます。横軸に経過期間(日、週、月など)、縦軸にコホート(ユーザーがサービスを利用開始した時期や特定のアクションを実行した時期など)が並び、各セルにそのコホートの特定の時点での定着率やその他の指標が表示されます。
例えば、サービス利用開始月をコホートとした月次定着率のコホート分析表があるとします。 * 縦軸(コホート): 2023年1月開始コホート、2023年2月開始コホート、... * 横軸(経過期間): 0ヶ月目(開始月)、1ヶ月目、2ヶ月目、... * 各セル: 2023年1月開始コホートのユーザーのうち、開始月から1ヶ月後にサービスを利用していたユーザーの割合
この表を読み解く基本的な視点は以下の通りです。
- 縦方向の比較: 異なるコホート間で、同じ経過期間における定着率を比較します。これにより、特定の時期に獲得したユーザー群(例:キャンペーン経由、特定のバージョンで獲得)の質や傾向の違いを把握できます。
- 横方向の追跡: 特定のコホートについて、経過期間ごとの定着率の変化を追います。これにより、時間の経過とともにユーザーがどのように離脱していくかのパターンを把握できます。
- 斜め方向の観察: 同じ絶対期間(例:2023年3月時点)における、異なるコホートのユーザーの状態を比較します。これはやや応用的な視点ですが、特定の時期にサービス全体で何らかの変化があった場合に役立ちます。
データから「異常」や「パターン」を見つける
コホート分析表を読み解く際に重要なのは、データから何らかの「異常」や「典型的なパターン」を見つけ出すことです。
- 初期の急激な定着率低下: 0ヶ月目から1ヶ月目にかけての定着率が極端に低いコホートがある場合、その時期に獲得したユーザーの初期体験に問題があった可能性が考えられます。オンボーディングプロセスの改善や、流入経路の見直しが示唆されるかもしれません。
- 特定の期間における定着率の落ち込み: 複数のコホートで、同じ経過期間(例:利用開始から3ヶ月後)に定着率が大きく低下している場合、その時期にユーザーが直面する共通の課題や、サービス側の変化(機能制限、競合の登場など)が影響している可能性が考えられます。
- 特定のコホートの定着率の異常: 特定のコホートだけが、他のコホートと比較して明らかに定着率が高い、あるいは低い場合、そのコホートを獲得した時期やチャネル、キャンペーンの内容などがユーザーの質に影響を与えた可能性があります。
- コホート間の定着率の変化: 最新のコホートの定着率が過去のコホートと比較して改善または悪化している場合、最近のプロダクト改善やマーケティング施策の効果(または悪影響)が現れている可能性があります。
これらのパターンを見つけ出すことが、次の「なぜ」を問い、示唆を得る第一歩となります。
「なぜ」を問い、データから示唆を抽出する
データで異常やパターンが確認できたら、次に「なぜそのような結果になったのか」を深く考察します。この段階で、コホート分析の結果だけでなく、他の情報源も活用することが重要です。
- 仮説の立案: 特定のパターンが見られた時期やコホートに対して、考えられる原因に関する仮説を立てます。例えば、「2023年3月コホートの定着率が低いのは、その月に実施した特定の広告キャンペーンで、プロダクトに合わないユーザーが多く獲得されたからではないか?」「利用開始から2週間後の定着率が低いのは、その時期にユーザーが特定機能の利用で躓いているからではないか?」といった仮説です。
- 関連データの調査: 立てた仮説を検証するために、他の関連データを調査します。
- セグメントコホート分析: 元のコホートを、流入チャネル、初回行動(例:特定機能の利用有無)、デモグラフィック属性などで分割し、セグメントごとのコホート分析を行います。これにより、「特定のチャネル経由のユーザーは定着率が低い」といった具体的な原因特定に繋がります。
- 行動ログ分析: 特定の期間に離脱したユーザーや定着しているユーザーの行動ログを詳細に分析し、共通する行動パターンや、特定の機能の利用状況、発生したエラーなどを調べます。
- ユーザーフィードバック: カスタマーサポートへの問い合わせ内容、アプリストアのレビュー、アンケート結果などを参照し、ユーザーが実際に感じている不満や課題を把握します。
- プロダクトの変更履歴: 特定の時期にプロダクトにどのような変更(機能追加、UI変更、バグ修正など)があったかを確認し、それがユーザー行動に影響を与えた可能性を検討します。
- 外部要因: 競合の動向、季節要因、ニュースなども考慮に入れる必要があるかもしれません。
- 示唆の抽出: これらの情報源を総合的に分析し、最も可能性の高い原因を特定し、プロダクト改善に向けた具体的な示唆を抽出します。例えば、「オンボーディングプロセスの中で、ステップ3で多くのユーザーが離脱している。特にこのステップで〇〇機能の説明が不十分であることが原因ではないか?」「特定の価格帯のユーザー群は初期定着率が高い傾向にある。この価格帯のユーザーを増やす施策を検討できないか?」といった形です。
抽出した示唆をプロダクト改善に繋げる
抽出された示唆は、プロダクトの改善や施策立案の重要なインプットとなります。
- 優先順位付け: 複数の示唆が得られた場合は、プロダクトのKGI/KPIへの影響度、改善の難易度、必要なリソースなどを考慮して、実施すべき施策の優先順位を付けます。
- 施策の立案と実行: 特定された課題に対して、具体的な改善施策を立案し、実行します。例えば、オンボーディングフローの修正、特定の機能のUI/UX改善、ターゲットユーザー層に合わせたマーケティングメッセージの調整などです。
- 効果測定と繰り返しの分析: 施策を実行した後は、その効果を測定するために再度コホート分析を行います。施策実施後にサービスを利用開始したコホートの定着率が、以前のコホートと比較してどのように変化したかを観察することで、施策の有効性を評価し、さらなる改善に繋げることができます。
この一連のサイクル(分析→仮説立案→検証→示唆抽出→施策立案・実行→効果測定)を継続的に繰り返すことが、プロダクトの成長には不可欠です。
まとめ:データから意味を読み解く力
コホート分析は、単なる数値計測に留まらず、ユーザー行動の背後にある要因を探り、プロダクト改善のための具体的なヒントを与えてくれる強力なツールです。分析結果の表層的な数値だけでなく、そこから異常なパターンや傾向を見つけ出し、「なぜ」を深く問い、他のデータソースと組み合わせながら多角的に考察することで、より価値のある示唆を抽出できます。
プロダクトマネージャーにとって、コホート分析を通じてデータから意味を読み解き、それを具体的なアクションに繋げる能力は、プロダクトを成功に導く上で非常に重要です。まずは身近なツール(BIツール、Google Analytics/Firebaseなど)を活用し、基本的なコホート分析の結果から、今日解説したような視点でデータを読み解く練習を始めてみてはいかがでしょうか。継続的なデータ分析とそこからの学びが、必ずやプロダクトの定着率向上と成長に繋がるはずです。