コホート分析を応用する:特定のユーザー行動を起点にした分析の可能性
特定のユーザー行動を起点としたコホート分析とは
プロダクトの成長において、ユーザーの継続的な行動を理解することは極めて重要です。多くのプロダクトマネージャーの方は、ユーザーがいつ登録したか(登録日)を起点としたコホート分析を通じて、全体の定着率や期間経過に伴う行動の変化を把握されていることと思います。しかし、ユーザーの行動は登録日だけで決まるわけではありません。特定の重要な行動、例えば「初回購入」「特定のコア機能の利用開始」「特定のレベルへの到達」といった行動が、その後のユーザーの継続やエンゲージメントに大きな影響を与えることがあります。
特定のユーザー行動を起点とするコホート分析は、このように特定の行動を実行したユーザーグループ(コホート)を抽出し、その行動を起点として彼らがその後どのようにプロダクトを利用し続けているかを追跡する手法です。これにより、標準的な登録日コホートだけでは見えにくい、より深く具体的なユーザー行動パターンや、特定の行動がその後の継続率に与える影響を明らかにすることができます。
なぜ特定の行動を起点とする分析が重要なのか
登録日を起点としたコホート分析は、プロダクト全体の健全性を把握する上で基礎となります。一方で、特定のユーザー行動を起点とする分析は、より具体的な施策の効果測定や、特定のユーザーセグメントの深掘りに威力を発揮します。
この分析手法の主な利点は以下の通りです。
- 特定の行動がもたらす影響の理解: ある重要な行動(例: 初回購入)を実行したユーザー群が、そうでないユーザー群と比べてどれだけ継続率が高いか、あるいは異なる行動をとるかを定量的に把握できます。
- ユーザー行動ジャーニーの解明: ユーザーがプロダクト内で辿る特定のパスやマイルストーン(特定の機能利用、特定コンテンツの閲覧など)が、その後の継続にどのように繋がるのか、あるいは繋がらないのかを明らかにできます。
- 施策の効果測定: 特定の行動を促すための施策(例: オンボーディングでのコア機能利用促進、特定機能のA/Bテスト)を行った結果、その行動を実行したユーザーの継続率がどのように変化したかを追跡し、施策の効果をより正確に評価できます。
- ハイユーザー/ロイヤルユーザーの特定と分析: 特定の行動(例: 頻繁な利用、高額購入)を起点とすることで、プロダクトにとって価値の高いユーザー層の特性や行動パターンを深く理解し、彼らを増やすための施策立案に繋げられます。
分析対象となりうる特定の行動例
プロダクトの性質によって重要な特定の行動は異なりますが、一般的な例としては以下のようなものが挙げられます。
- 初回購入: eコマースやサブスクリプションサービスにおいて、ユーザーが最初に購入を完了した日を起点とします。
- 特定機能の利用開始: SaaSプロダクトで、ユーザーがプロジェクトを作成したり、コラボレーション機能を初めて利用したりした日を起点とします。
- 重要なコンテンツの閲覧/完了: メディアサイトや学習プラットフォームで、特定の記事を読了したり、コースを完了したりした日を起点とします。
- 一定レベル/ステータスへの到達: ゲームやコミュニティプロダクトで、ユーザーが特定のレベルに達したり、特定のバッジを獲得したりした日を起点とします。
- 有料プランへのアップグレード: Freemiumモデルのプロダクトで、ユーザーが有料プランに移行した日を起点とします。
これらの行動を分析の起点とすることで、「初回購入から3ヶ月後の継続購入率は?」「特定機能を使い始めたユーザーは、そうでないユーザーより半年後の離脱率が低いか?」といった、より具体的な問いに対する答えを得ることができます。
特定行動起点コホート分析の具体的な手順
分析の基本的な考え方は登録日コホートと共通していますが、起点となるイベントの定義が異なります。
- 分析対象となる「特定の行動」を定義する: どのような行動がプロダクトにとって重要で、その後のユーザー行動に影響を与えうるかを検討し、明確に定義します。
- 特定の行動を実行したユーザーと行動実行日を特定する: 定義した行動の発生ログから、どのユーザーがいつその行動を実行したかを抽出します。これが各ユーザーの「コホート起点日」となります。
- コホートを構成する: 特定の行動を実行したユーザーを、行動を実行した「期間」(日、週、月など)でグループ化します。例えば、「2023年1月に初回購入したユーザー群」「2024年4月に特定のコア機能を利用開始したユーザー群」といった形です。
- 継続/定着の定義を設定する: 特定の行動を実行したユーザーが「継続している」とみなすための定義を明確にします。これは「分析対象期間中に1回以上プロダクトを利用した」「特定のイベントを再度実行した」など、目的に応じて設定します。
- コホートごとの継続率などを集計・可視化する: 定義したコホートごとに、起点日から一定期間経過した後の継続率や、特定の行動の再実行率などを集計し、コホートテーブルなどの形式で可視化します。多くのBIツールや分析プラットフォームには、コホート分析の機能が備わっています。
- 結果を解釈し、インサイトを抽出する: コホートごとの継続率の違いや期間経過に伴う変化を観察し、どのようなインサイトが得られるか、プロダクト改善のためにどのような示唆があるかを検討します。「この行動を実行したユーザーは継続率が高い」「あの施策期間中に特定行動を実行したユーザーは継続率が改善した」といった発見が得られます。
分析結果をプロダクト改善に活かす
特定行動起点コホート分析から得られたインサイトは、具体的なプロダクト改善施策に直結させることが可能です。
- ユーザーオンボーディングの改善: 初回購入やコア機能利用開始後の継続率が低いコホートが見られる場合、その行動を促す前後のユーザー体験に見直しが必要かもしれません。
- 機能改善: 特定機能を利用したユーザーの継続率が高い場合、その機能をより多くのユーザーに利用してもらうための施策を検討できます。逆に、特定の機能利用が継続に繋がらない場合は、その機能自体に課題がある可能性が考えられます。
- マーケティング・コミュニケーション戦略: 特定の行動を実行したユーザーセグメントに対し、継続を促すためのパーソナライズされたコミュニケーションを行うことができます。
- ユーザーセグメンテーションの深化: 特定行動に基づいたコホート分析は、より精緻なユーザーセグメンテーションを可能にし、各セグメントに最適化された体験を提供するための基礎となります。
分析ツールの活用について
多くのデータ分析ツールやBIツール、あるいはGoogle Analytics/Firebaseなどのプロダクト分析プラットフォームでは、特定のイベントを起点としたコホート分析機能が提供されています。これらのツールを活用することで、比較的容易に特定行動起点コホート分析を行うことができます。重要なのは、分析に必要なユーザーの行動ログデータが適切に計測・蓄積されていることです。どのような行動データを取得すべきかについては、分析を通じてどのような問いに答えたいかを事前に明確にすることが出発点となります。
まとめ
特定のユーザー行動を起点としたコホート分析は、登録日コホート分析と組み合わせることで、ユーザーの継続的な行動やプロダクトの成長ドライバーについて、より深く実践的な理解をもたらす強力な手法です。この分析を通じて得られる精緻なインサイトは、データに基づいたプロダクト改善、ユーザー定着率の向上、そしてより効果的なビジネス戦略の立案に大きく貢献します。プロダクトの次の成長段階を目指す上で、ぜひこの分析手法を導入し、ユーザー行動の扉をさらに深く開いてみてください。