流入経路ごとのユーザー定着率を測る:コホート分析によるチャネル効果測定
プロダクトの成長において、ユーザー獲得は重要なステップですが、どの流入経路から獲得したユーザーが、より長くプロダクトを利用し、価値を生み出すのかを理解することはさらに重要です。獲得コストだけでなく、獲得したユーザーの「質」を見極めることは、プロダクトの持続的な成長戦略を立てる上で不可欠と言えます。
しかし、多くのプロダクトマネージャーは、チャネルごとのユーザーの継続的な行動を把握し、それぞれの効果を正確に評価することに課題を感じています。単にユーザー数やコンバージョン率を追うだけでは、その後の利用状況や定着率の違いを見落としてしまう可能性があるからです。
本記事では、このような課題に対し、コホート分析をどのように活用できるか、特に「獲得チャネル別」のコホート分析に焦点を当てて解説します。獲得チャネル別のコホート分析は、流入経路が異なるユーザーグループの行動特性や定着率の違いを明らかにし、データに基づいた獲得戦略やプロダクト改善施策の意思決定を強力に支援します。
獲得チャネル別コホート分析とは
コホート分析は、共通の特性や行動を持つユーザーグループ(コホート)を抽出し、その後の一定期間における行動を追跡・比較する分析手法です。一般的なコホート分析では、ユーザーがプロダクトを利用開始した「期間」(週、月など)をコホートの定義とすることが多いですが、「獲得チャネル別コホート分析」では、ユーザーがプロダクトを初めて利用開始した際の「流入経路(獲得チャネル)」をコホートの定義とします。
例えば、「オーガニック検索からのユーザー」「SNS広告経由のユーザー」「特定のアフィリエイトサイトからのユーザー」といったグループをコホートとして定義し、それぞれのグループが利用開始後1週間、1ヶ月、3ヶ月と経過した時点で、どの程度の割合がプロダクトを利用し続けているか(定着率や継続率)、あるいは特定のアクションを実行しているかを追跡します。
なぜ獲得チャネル別コホート分析が必要なのか
獲得チャネル別のコホート分析を行うことで、以下のようなインサイトやメリットが得られます。
- チャネルごとのユーザーの質を評価する: 単なる獲得数ではなく、獲得したユーザーがどれだけプロダクトに定着し、価値をもたらすかをチャネルごとに比較できます。
- 効果的な獲得チャネルを特定する: 高い定着率や継続率を示すチャネルを特定し、そのチャネルへのマーケティング投資やリソース配分を最適化できます。
- 獲得コストに見合うかを判断する: 獲得コスト(CAC: Customer Acquisition Cost)と、コホート分析で得られたユーザーの質や長期的な価値(LTV: Life Time Value の算出にも繋がります)を照らし合わせ、チャネルの費用対効果を評価できます。
- チャネルごとの特性に合わせた施策を検討する: 特定のチャネルからのユーザー行動に偏りが見られる場合、そのチャネルに特化したオンボーディング施策やコミュニケーションを検討するヒントが得られます。
- プロダクト改善の優先順位付けに役立てる: 特定のチャネルからのユーザーが早期に離脱する傾向がある場合、その原因を探り、プロダクトの改善点を見つけ出すことができます。
具体的な分析手順
獲得チャネル別コホート分析は、以下のステップで進めることができます。
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コホートの定義(獲得チャネルの特定): 分析の起点となるコホートを定義します。この分析では、ユーザーがプロダクトを初めて利用開始した際の「獲得チャネル」をコホートとします。獲得チャネルは、参照元(Referrer)、 UTMパラメータ、広告媒体、キャンペーンIDなど、データとして記録されている情報を基に定義します。Google Analyticsなどのツールでは、デフォルトでチャネルグループが定義されている場合が多いです。 例:「Organic Search」「Paid Search」「Social」「Direct」「Referral」「Email」「Display」など。ビジネスに合わせてより詳細なチャネル定義も可能です。
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コホート開始イベントの定義: ユーザーがいつその獲得チャネルからプロダクトを利用開始したとみなすかのイベントを定義します。一般的なのは「初回セッション発生日」や「初回ログイン日」、「会員登録日」などです。プロダクトの特性やビジネスモデルに合わせて適切なイベントを選択します。
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分析対象期間の設定: どの期間に獲得されたユーザーを対象とするかを設定します。例えば、「2023年1月1日から2023年3月31日までに獲得されたユーザー」といったように、特定の週、月、四半期などを設定します。
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追跡する継続イベントまたは指標の定義: コホートメンバーが期間経過後に「継続している」と判断する基準となるイベントや指標を定義します。例えば、「週に1回以上のログイン」「特定の重要機能の利用」「課金イベントの発生」などです。定着率を見る場合は「指定期間内に1回以上のセッション発生」などが一般的です。
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データの集計とコホート表の作成: 定義したコホート(獲得チャネル別)、コホート開始イベント発生時期(週や月)、そして追跡する継続イベントの発生有無を基にデータを集計します。多くのBIツールや分析ツールにはコホート分析機能があり、獲得チャネル別のコホート表(マトリックス)を自動生成できます。コホート表は通常、行に獲得チャネルと獲得期間、列に経過期間(利用開始からn週後、nヶ月後など)を配置し、各マス目に継続率などの指標が表示されます。
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結果の解釈: 生成されたコホート表を見て、チャネルごとの継続率の推移を比較します。特定のチャネルが高い継続率を維持しているか、あるいは特定のチャネルからのユーザーが早期に離脱しているかなどを読み取ります。また、獲得期間によって継続率に変化がないか(例:特定のキャンペーン期間に獲得したユーザーの質)、経過期間が長くなるにつれてチャネル間の差がどう変化するかなども重要な視点です。
分析結果の活用例
獲得チャネル別コホート分析から得られたインサイトは、プロダクト改善やマーケティング施策に多岐にわたって活用できます。
- マーケティング戦略の見直し: 定着率の高いチャネルにマーケティング予算を集中させたり、定着率が低いチャネルの広告クリエイティブやターゲティングを見直したりします。
- オンボーディングの改善: 特定のチャネルからのユーザーが初期段階で離脱しやすい場合、そのチャネル専用のオンボーディングフローを設計・改善することで、初期のつまずきを減らすことを目指します。
- チャネル別のLTV予測: 定着率のデータは、チャネルごとのユーザーの平均的な利用期間を推測するのに役立ち、より正確なLTV予測に繋がります。これにより、各チャネルに投資すべき妥当な獲得コストの上限値を設定できます。
- プロダクト機能の優先順位付け: 特定のチャネルから流入したユーザーがよく利用する機能や、逆に利用しない機能を特定し、そのチャネルを主要なターゲットとする場合のプロダクト改善の参考にします。
- 不正流入の検知: 不自然に高い初期離脱率を示すチャネルがないか監視することで、ボットなどの不正な流入を早期に検知できる場合があります。
分析ツールの活用
Google Analytics、Firebase Analytics、Amplitude、Mixpanel、Tableau、Lookerといった一般的な分析ツールやBIツールの多くは、コホート分析機能を備えています。これらのツールでは、ユーザーの獲得チャネルを自動的にトラッキングしたり、カスタムディメンションとして設定したりすることで、比較的容易に獲得チャネル別のコホート分析レポートを作成できます。ツールのインターフェースに沿って、コホートの定義、期間、継続イベントなどを設定することで、視覚的なコホート表やグラフとして結果を確認することが可能です。
まとめ
獲得チャネル別コホート分析は、プロダクトマネージャーがユーザー獲得の質を深く理解し、データに基づいた意思決定を行うための非常に強力な手法です。どのチャネルから質の高いユーザーが流入しているのか、あるいはどのチャネルからのユーザーが課題を抱えているのかを明確にすることで、限られたリソースを最も効果的なチャネルに集中させたり、課題のあるチャネルやプロダクトそのものの改善点を発見したりすることができます。
ユーザーの継続的な行動をチャネルごとに追跡することは、プロダクトの持続的な成長に不可欠です。ぜひ、自身のプロダクトの獲得チャネル別コホート分析を始めてみてください。この分析から得られるインサイトが、次のプロダクト戦略やマーケティング戦略立案の確固たる基盤となるはずです。